がん克服【初期のがん、治療するべきか】ー議論促す日米の研究結果


がんを治療すべきか、すべきでないか

議論が白熱

ごく小さな甲状腺がんにさえ積極的な治療を施す状況が何年も続いているが、米国と日本の有名な研究者たちは論文で、古い慣行を見直すように勧め、多くの早期がん患者は経過を見ながら待つのが効果的かもしれないと述べている。

米国甲状腺教会の専門誌「Thyroid(甲状腺)」掲載の二つの論文によると、小さな甲状腺がんを持つ患者を検査・診察しながら見守るこの方法は「活発な監視療法」とも呼ばれ、成長したり転移したりしないがんの摘出手術に代わる可能性がある。

米国がん協会のオーティス・ブローリー最高医療責任者(CMO)は「いつも、がんは恐れる対象であり、全てのがんは悪だと教わってきた。全てのがんは手術すべきだとも教わった)と述べた。だが、今では、前立腺がん、乳がん、甲状腺がんなどいくつかのがんの初期段階に対する治療に対し、かつてないほどの疑問がもたれているという。

現在のがん治療・手術に疑問

内分泌学を専門とするスローン・ケタリング記念がんセンターのR・マイケル・タトル博士は、甲状腺がんと診断される人の数が「非常に増えている」と述べた。タトル氏は、二つの論文の一方の主執筆者だ。

新たな症例が年間6万件を超える状況にあって、タトル氏は早期の甲状腺がんについて、「従来の手法では、直ちに甲状腺手術を受けるよう当たり前のように勧めているが、これを見直すことが重要だ」と話す。電子版に掲載されている日本の研究結果いよれば、注意しながら待つことを選んだ患者の経過は、手術を受けた患者と同程度に良好だったという。

大半の甲状腺がんは症状がなく、無関係の検査で偶発的に判明する。通常、首の付け根の甲状腺に小塊の形で表れ、その後に生体検査と手術が続き事が多い。

だが、一部の手術には正当な理由がないとの声も聞かれそうだ。甲状腺を切除すると疲労や体重増加といった副作用が出ることもある。そのため、手術はもっと慎重にするべきだとタトル氏は主張。「私たちは、技術が自分たちの先を行っていることに気づき始めた」と述べ、「20年前なら見つけられなかっただろう甲状腺がんが見つかっている」とはなす。

タトル氏がスローン・ケタリングで数年前に設置したプログラムでは、綿密な超音波検査や医師の定期訪問を伴う経過観察という選択肢を患者に提供している。初期には医師と患者から強い抵抗もあったが、次第に受け入れられて250人の患者が参加しているという。

甲状腺がん患者のための教会ThyCaは、観察を選択肢に入れる事を支持している。だが、経過観察をしながら待つことを嫌い、せうじょを希望する患者もいるという。

甲状腺がんを注意深く見守るという手法は、より広範囲な議論の一端だ。米国では、悪影響を受けるリスクがほとんど無い。がん以前の病変や初期のがんに対する治療が過剰かどうか議論されタードマス大学医学部のH・ギルバード・ウエルチ教授は、今年出版した著書で、害のない小さな病変の治療について、「私たちは行き過ぎており、解決する以上に大きな問題を生み出す結果になっている」と書いている。

一方、観察支持派も含め、一部の医師は過剰治療への反対が行き過ぎることを警戒している。前立腺を専門とするカルフォルニア大学サンフランシスコ校医学部内科分泌のピーター・キャロル博士は「《診断からがんという言葉を排除しよう》と言う人がいた。それは少し危険だと思う」と述べた。がんという言葉がなければ警戒しないだろうという。

がん協会のブローリー氏は、非浸潤性乳がんが危険な侵襲性乳がんに発展しうる時期についてのデーターが不足しているため、正式な実験をしたいとの意思を示した。ダナ・ファーナー癌研究所のアン・パートリッジ医師も同意見で、他機関のスタッフと実験の準備をしているという。

~がん克服のために~

がん克服 【家族も第二の患者】


家族への支援

がん患者だけでなく、患者の家族への支援も必要だ。

千葉県習志野市の女性(54)は2014年7月、夫(54)がステージ3bの直腸がんと判明した。病気に気づいてあげられなかった後悔や将来への不安を抱える一方、夫の前で弱音を吐けなかった。本やインターネットなどで治療の情報を必死に集め、「免疫力を高める」とされる食事作りに励んだ。友人からは「もっと大変な人もいるから頑張って」と励まされた。がんの話や看護の負担を聞いてもらうのが申し訳なくなり、自然に距離をおくようになった。

「仲間が欲しい。話ができる場所が欲しい」。昨年秋、「NPOがんサポートコニュニティー」が家族会を主催している事を知り、参加した。がん患者の家族4、5人が集まるミーティングで、次第に「苦しい」「つらい」という言葉を口にできるようになった。

「家族は第二の患者」という言葉がある。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)の精神腫瘍科医で「家族ケア外来」担当の加藤雅志医師(41)は「がんは家族の生活も一変させる。家族は負担が大きい一方、周囲から《患者を支える側》として認識され、悲しみや辛さを表に出せないケースも多い」と指摘する。がん患者への調査で、全体の35%が抑うつ状態だったという研究もある。加藤医師は「《〇〇さんの家族》ではなく、その人自身を中心に据えて話を聞く場が必要」と話す。

家族を支える場として加藤医師は、各都道府県のがん診療拠点病院に設置されている相談支援センターを挙げる。患者や家族の悩みに医療ソーシャルワーカーが応じる。また、担当医や看護師に声をかけることも勧める。「家族の生活の質を上げる事は、患者の質を上げることにつながる。一人で抱え込まず周りに相談して」と話す。

遺族外来で・・楽に

一方、支援を受けずらいのが患者を亡くした家族だ。東京都町田市の大竹裕子さん(67)は13年6月、夫重昭さん(当時70歳)を末期の肺がんで亡くした。重昭さんは同年5月28日に自宅で倒れ、救急搬送された病院で末期の肺がんと告げられた。すでに肝臓や骨にも転移し、亡くなったのは12日後だった。「もっとはやく気付いてあげていれば」。大竹さんは重昭さんの死を受け入れられず、後悔の念にさいなまれた。重昭さんと暮らした家にひとりでいることが耐えられず、化粧をし明るい色の服を着て、毎日映画鑑賞や日帰り温泉へ出かけた。それでも眠れない日が続いた。動悸が収まらず、冷や汗が出る。食事がのどを通らず、55㌔あった体重は2ヶ月で39㌔まで落ちた。

同年7月末、毎日新聞の記事で、埼玉医科大国際医療センター(埼玉県日高市)にあるがん患者遺族向けの「遺族が以来」を知った。3日後に訪れた外来で、大西秀樹教授から「悲しみは消えないけれど、喪失感を埋めていきましよう」と声をかけられた。心が少し軽くなった気がした。

大西教授は「がん患者遺族は、《もっとこうしていれば良かった》という後悔や葛藤を抱え続けていることが多い」と話す。大西教授らの調査によると、遺族外来に来る家族のうち約4割がうつ病の症状を抱えていた。しかし、埼玉医科大のように遺族外来のある医療機関は全国にほとんどない。患者の治療が終了すれば医療現場との関係も切れ、孤立してしまいがちだ。大西教授は「遺族には、患者が無くなった日前後に体調を崩すなどの《記念日反応》もある。家族だけでなく遺族も長い目でケアできる体制の整備が必要」と話す。

大竹さんは遺族外来に通い始めた当初「あのときああしていれば」と悔やむ言葉が止まらなかった。それでも話を聞いてもらううちに、少しずつ肩の力が抜けて行った。「ひとりくらいパパのことをいつも思い出して泣く人がいてもいい。今はそう思えるんです」。少し広く感じる自宅には、あちこち重昭さんの写真が飾られている。

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