がん克服【神の手を持つスーパードクター】


ドクターXのモデルになった加藤友朗(かとう ともあき)先生

コロンビア大学医学部外科学教授

同大学付属ニューヨーク・プレスバイテリアン病院肝小腸移植外科部長

1963年 東京生まれ

1987年 東京大学薬学部卒業後、大阪大学医学部に学士入学

1991年 大阪大学医学部卒業、同大でインターンシップを終了後、兵庫県伊丹市立病院で研修医

1995年 マイアミ大学医学部にてクリニカル・フェローとして勤務

1997年 同大小児移植外科准教授 2007年教授

2008年 コロンビア大学医学部外科学教授

世界を驚嘆させた《神の手》を持つ外科医

最先端の臓器移植手術を数多く手がけるとともに、ほかの病院では「手術不可能」と診断されたがん患者を救ってきた。その手腕は「神の手」との尊称で呼ばれる。

おなかの臓器をいったん全部外に出す!

加藤の名を世界に轟かせた手術の一つが世界初の「多臓器体外摘出腫瘍切除」手術だ。つまり「もう切ることができない」と診断された場所に出来た腫瘍を取り除くため、内臓(胃・すい臓・脾臓・肝臓・大腸・小腸)をいったん全部外に出して(当然、血管も全て切離す)腫瘍を取り除いた後、再び臓器をおなかの中に戻す。血管も再び縫い合わせるという、気の遠くなるような大手術だ。

この手術は、2008年に63歳の女性に、2009年には7歳の女の子に行われ、ニューヨーク・タイムズ、CNN,ABCといった米国の主要メディア、さらに世界の報道機関が「日本の天才ドクターが世紀の大手術に成功」と大々的に報じた。

世界中から助けを求める手紙が届いている

複数の内臓にまたがる移植手術や腫瘍切除のエキスパート。移植手術は2000件を超える。多内臓が絡むと、30時間以上ぶっ通しの手術になることも。世界中からがん患者の問い合わせも、後を絶たない。

加藤先生と一問一答

●~おなかの中の全部外にだすんですよね~

加藤 胃・すい臓・脾臓・肝臓・大腸・小腸ですね。

●~おなかの中は、空っぽになるんですね~

加藤 完全に空っぽです。普通の外科手術では見たことのない景色です。術後患者さんに本人の手術時の写真を見てもらうのですが、かなりびっくりされていました。

●~そんなに出して、体の中は危なく無いんですか~

加藤 一定の時間があれば問題ありません。体外に臓器を摘出するためには、まず、全ての臓器を体に付着している部分から剥がさなければなりません。これは繊細に丁寧に、剥離しては止血する作業になります。

最終的には大動脈(全身の血液の大もとになる太い動脈)、大静脈(同じく太い静脈)以外を全部ぶらぶらになるところまで剥離してから、この大きな血管(大動脈と大静脈)を切ります。そして、6つの臓器と、腫瘍に絡みついた血管部を一緒に、体の外に出してしまうというわけです。

●~太い血管も細い血管も全て切って、一つ一つ止血。気の遠くなる様な作業ですね。おなかの中はどうなっているのですか~

加藤 臓器を出した後、重要な血管は「ゴアテックス」という、レインウエァなどにも使う素材の人工血管で置換し、血流を再開します。そうすると、心臓からおなかの中の方へ行っていた血流が再び足元まで流れるようになります。

●~血液は、おなかの内臓をスルーしても、ちゃんと全身を循環していれば問題ないのですか~

加藤 最長6時間、少なくとも4時間は問題ないと思っています。万が一、体外で腫瘍を切る時間が延び6時間を超えた場合も、低温冷却することで対処は可能です。ただその時は、人工心肺の準備が必要になる。低温による心肺停止の可能性が出てくるからです。

●~体外に出された臓器はどんな状態になっているのですか~

加藤 内部に残った血液を全て抜いた状態で、4℃に保った特殊な保存液に漬けておきます。この保存液は臓器移植の現場で磨かれたもので、10時間までなら臓器にダメージが残らないと考えられています。移植手術の際、臓器を輸送する時にも使われているんですよ。

●~では、腫瘍の切除は保存液に漬けたままやるんですね。~

加藤 そうです。体外に摘出した臓器にも体にもダメージを残さない時間内に腫瘍を切除して、血管を再建する。そして臓器を患者さんの体に戻し、血管を吻合(ふんごう)し、血流を再開させる発想です。

●~おなかの臓器を全て外に出しても元気なんて!人間の体ってすごいですね。

加藤 不思議でしょう(笑)。この手術の1回目の患者さんの病名は「平滑筋(へいかつきん)肉腫」といって、決して難治療ではないのですが、彼女の場合は腫瘍のできた場所が悪かった。約7㌢の腫瘍が、大動脈から腹部の内臓に血管を送る大きな血管を巻き込んでいたのです。

しかも、背中に近い、体の深い場所に腫瘍があって、辿り着くのが極めて難しく、ほかの病院では切除不可能としんだんされたんです。そこで僕は腫瘍を臓器ごと外に一回出しててしまえばと考えたわけです。

●~あらためて聞いても、やはりとっぴな発想と思えますが~

加藤 話だけ聞くとそう感じるかもしれませんが、それ程発想飛躍はないんです。というのも、僕はそれまでに多くの移植手術を手掛けてきました。日本に比べ移植手術の件数が圧倒的に多いアメリカでは(日本・年平均300件 アメリカ年平均2万2千件)、臓器を全て取り出す多内臓移植も珍しくない。

一方で、腫瘍の外科手術においても、臓器を体外に取り出す手法はあった。僕は、臓器移植と腫瘍、双方の外科手術を経験してきたから、両方を組み合わせる発想が出来たんだと思います。

●~先生はやはり、もともと器用だったんですか~

加藤 器用な方だったと思います。確かに外科医には、繊細さや器用さは不可欠です。しかしそれも才能ではなく、やはり基礎の積み重ねなんです。実際、若い研修医を見ていても、将来、力を発揮できるかどうかは見えてきます。例えば、傷口のガーゼ交換ひとつでも、完ぺきにこなそうとする人は将来伸びてくる。点滴の針を刺すことにおいても同様で、針に入れ方で患者さんの感じる痛さもだいぶ変わるんです。入れた瞬間に、針が血管の奥側に触れると痛いんですよ。この微妙な力加減を意識して練習できるかできないか。

だから大事なのは、その場その場で自分に与えられたことを完ぺきにこなすことです。人より早くでなく、人よりうまく丁寧にこなすこと。これが大事で将来につながっていきます。

●~手術は12時間を超えることもあるそうですが~

先ほどお話しした手術の場合、腫瘍の切除と再移植にかかったのは1時間半ほどでしたが、トータルの時間は15時間でした。これは、臓器を体の組織から丁寧に剥がし、1㍉以下の血管に至るまで丹念に止血するといった細かい作業に時間を掛ける為です。手術時間が長時間になっても、止血が最小限に済めば、その後の回復が早くなるからです。

●~今のところ、最長としての記録は~

加藤 30時間ですね。

●~30時間って、一日以上ですよ!集中力ってそんなに持つものなんですか~

加藤 僕も、以前は12時間を超える手術はすべきでないと思っていました。だけどある時、非常に困難な腫瘍手術を引き受けて実際に開けてみたところ、状態が非常に悪く、12時間以内に収まりそうになかった。それでも僕がやらない限りだれもやってくれないわけですよ。終わったら24時間を超えていました。この時、自分の中の12時間というリミットが一気に吹っ切れました。

●~自分で外したのではなく、経験によって自分のリミットをはずしたんですね。休憩は取るんですか~

加藤 15分から20分ほどの休憩を何度か。少し横になったり、何か食べたりします。

●~何を食べるんですか~

加藤 ポテトチップスやチョコレートなど食事というより、栄養補給です。

●~眠くは無いんですか~

加藤 不思議とないんですよ。手術でない時24時間連続で起きているのは辛いですが、手術室では違うモードに入るんでしょうね。トイレにも行きたくないですから。

加藤先生のモットー

世界を驚嘆させた奇跡の手術を成功させた加藤医師だが、あくまでも「基礎の組み合わせ」だったと謙虚に語る。彼は「神の手」といった呼び方に対しては、心ならず戸惑いを感じているようだ。

そうは言えど、いったん切り離した太さ1㍉以下の血管を縫い合わせ、細かく丁寧に針糸をかけて止血していく(最も多い時は、一度の手術で5000本以上)その技術はやはり「神の手」と呼びたくなる。

●~最後に先生のモットーをお聞かせ下さい~

加藤 どんなオファーでも、簡単に「No」と言わない。それで得られたものがいくつもあります。人生の幅も広がりました。駄目だと思っても、何か方法は無いか、少しは考えてみる癖をつける。既存の考え方にこだわらず、時には枠からはみ出して考えてみることです。そうすると、その先に自分のスタイルが見えてくると思うんでよす。それと、僕の持っている技術を多くの後輩に伝えたい。難度の高い医師が増えれば、それだけ助かる患者さんも増えますから。

素晴らしい人間性

加藤さんは時折ジーンズで病院に出勤することもあるそうだ。

白衣を着て、いかにも「権威」という雰囲気を醸し出すのも嫌う。患者さんに「この人はすごい人だ」という先入観を抱かせない様、ざっくばらんに話が出来る様、素朴な質問が出せる様、そして信頼関係が構築できるように出来るだけ、白衣を着無いようにしていると言う。

高額医療が望めないベネズエラの患者のため、10年程前から週末は現地に飛び、移植手術に携わっている。

いつまでもお元気で、世界中の患者のためにその技術を後輩の医師に伝授されますように!

~がん克服~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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