がん克服【肺がんの原因遺伝子発見】
- 2015年09月05日
- がんの名医
がん克服
<肺がん遺伝子発見> 東京大学教授 間野博行先生
2011年、米国で肺がん治療薬「クリゾチニブ」が承認された。標的となる原因遺伝子を間野先生が発見されてからわずか4年。高い治療効果から、臨床試験の一部を省く異例のスピード承認だった。 研修医時代、最初に診たのが白血病の男性。強い抗がん剤を使ったが、そのかいなく亡くなった。薬で免疫力が落ちて全身の臓器にカビ(真菌)が生えたためと分かった。 「こんな治療法ではだめだ」と痛感し、血液内科で癌研究の道に進んだ。 診療の傍ら、血液がんが起こるメカニズムの研究を続けたが、「患者の役に立っていない」と、忸怩たる思いを抱えていた。分子標的薬の開発が盛んになっていたが、良く効くものは少なかった。「これらの薬は、発がんの原因分子を直接抑えていないのだろう。がんの本質的な原因遺伝子を見つけたい」。3年かけて、患者のわずかな検体から、遺伝子の機能を効率よく調べる技術を開発した。 がんの中でも脂肪率が多い肺がんに取り組み、07年、2つの遺伝子が融合した異常な遺伝子「EML4-ALM」を発見した。この遺伝子を入れたマウスは生後すぐに肺に数百のがんができ、この遺伝子の働きを抑える「ALK阻害剤」を飲ませると、がんが消えたことを報告。ALK遺伝子の異常が、強力にがんを引き起こすことを示した。このタイプは肺がん全体の5%だが、若い人に多い。 米国や韓国では早速、臨床試験が始まった。間野先生は09年、ALKが原因の肺がんを診断する仕組みを国内で作り、希望者を海外の臨床試験に参加させた。「20代の重篤な患者の事が心配でソウルに行ったら、2週間で韓国料理を食べん行くまで回復していて驚いた」と振り返る。10年、国内でも臨床試験が始まり、12年に承認された。臨床試験中を含め世界で8種類の薬が開発され、ALKは腎臓など他のがんの原因になっていることも分かった。 「臓器別ではなく、原因遺伝子でがんを分類し治療する時代が必ず来る。それががん克服の一大要因になる」。 近い将来、必ず「がん克服」は成し遂げられる。 そう確信している。
経歴
昭和59年 東京大学医学部卒業 東京大学医学部付属病院内科 研修医
昭和61年 東京大学医学部第三内科 入局
平成 元年 米国テネシー州St.jude小児研究病院生化学部門 客員研究員
平成 3年 東京大学医学部第三内科 助手
平成 5年 自治医科大学医学部分子生物学講座 講師
平成12年 同 講座 助教授
平成13年 自治医科大学ゲノム機能研究部 教授
平成21年 東京大学医学部ゲノム医学講座 特任教授
平成25年 東京大学医学部ゲノム医学講座生化学・分子生物学講座細胞情報学分野 教授
受賞歴
日本癌学会 奨励賞
佐川がん研究助成振興財団 特研究助成賞
日本肺癌学会 篠井・河合賞
紫綬褒章 他多数