がん克服 【罹患率は徐々に減少へ】


毎日新聞 5月21日 朝刊  中川恵一・東京大学附属病院准教授、緩和ケア診療部長

日本人のがんのおよそ半分は、暮らしの中で「避けることができる」ものです。

国立がんセンター予防研究部が昨年10月に発表したデーターによると、日本では男性のがんのおおよそ55%(がん発生原因の53%・がん死亡原因の57%)は予防可能のリスクが原因のものでした。女性でも、未然に防げるがんは全体の30%近く(がん発生原因の28%・がん死亡原因の30%)を占めました。

日本人全体で見ると、喫煙と感染症がそれぞれがんの原因の20%前後を占め、肥満や野菜・果物の摂取量に比べずば抜けて大きなリスク要因となっています。

感染症の原因では、胃がんの原因の大半を占めるピロリ菌、肝臓がんの原因の約8割を占める肝炎ウイルス、子宮頸がんの原因のヒトパピローマウイルスなどが主なものです。欧米では、感染症は、がんの原因の5%程度ですから、発ガンの原因という点では、日本人のがんはまだ「途上国型」と言えるでしょう。これは、多くのがんが、発見できる大きさになるまで20年以上かかる為で、現在発症しているがんは、過去の社会の姿を反映しているものだからです。

がんの原因のトップは、男性は喫煙ですが、女性は感染症です。男女とも、感染が原因となる発がんは2割前後ですから、男性にがんが多い(死亡数は女性の1.5倍)のは、男女の喫煙率の差(男性3割強、女性約1割)によるところが大きいといえます。

先進国ではまだ高い日本男性の喫煙率ですが、近年、大幅に低下しつつあります。日本たばこ産業がまとめた昨年の全国たばこ喫煙調査によると、成人男子の喫煙率は36.0%でした。1966年の87,3%から47.7ポイントも減ったことになります。年代別では、60歳以上は23.9%で、66年当時より50%以上も減っています。

喫煙率の低下よ歩調を合わせるように、冷蔵庫や家庭の風呂の普及、輸血用血液からの肝炎ウイルスの除去などが進み、感染症も大きく減りつつあります。今後数年で、がんの罹患率は徐々に減少に向うと考えています。

ーがん克服ー

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

オフィシャルサイトに戻る